子供の頃から治そうと努力しても治らない癖があります。自分の考えを話そうとしたり、緊張すると喉がとても痛くなって声を出せなくなります。下手をすると泣きたくなくても涙が先にでるので大変みっともなく思います。そういう時は喉元や胸元をよく押さえて騙しだまし会話をします。ネックレスを直す動きでそれもごまかします。誰かとの会話を楽しめることはそう多くありません。プロンプターがいてくれれば、舞台のようなシナリオがあればと何度願ったことでしょうか。

そういう訳もあり私はコミュニケーションがほとほとうまくありません。言葉を扱うことも、絵を描くこともコミュニケーションの１つです。人間同士がつながりあうために産み出され磨かれてきたツールです。それぞれに違った強みと弱みがあり、どれが一番優れているか比べるものではないと私は思います。

私たちは生まれてから死ぬまで、１人です。どんなに社会的につながって共感してみたり分かりあったつもりになっても、哀しいかな100％他者とつながりあえないように作られています。人間１人ひとりがブラックボックスの集合体なのです。それは時折そら恐ろしいような気持ちにさせられます。さてブラックボックス同士をつなぐ(つないだように見せかける)ことは、どうあれ人間を『分かってもらえた！』としあわせにします。

つなぐ力やツールは、強く多くあればあっただけ、人間はしあわせを感じる可能性が高くなります。中でも会話というツールは、どんな場面でもどんな世界でも必要とされ重要とされるものです。それを欠いている私の中には言いたかった言葉が、想いが木の葉のように積み重なって堆積していきます。しかし１つのツールがうまく使えないならば、もういくつか組み合わせて使うことでその積み重なった言葉をいくらかはブラックボックスから世界に解き放つことが出来るのではないか、と下手くそなりに私は考えています。

絵に文章はいらないと強く言われることもあります。絵だけで伝える技術を磨くことを重んじる方には逃げだと感じられるのだと思います。しかし私は自作には文章を添え続けることでしょう。展示をしている絵のそばに立っていても上の理由も相まって私は思うように語ることができません。それでも会話を、説明する言葉を求められる世の中なので、私の代わりに絵について語ってくれる私の文章を、言葉を綴って置いておきます。読みたくない方は読まない、読みたい方は読むことを選択出来、(読んでいただけたらもちろん嬉しいけれども)展示室に私がいないときもその役を果たしてくれるからです。

そして何よりも絵のもつ伝える力だけでなく、文章のもつ伝える力を組み合わせてどちらも借りることで私は私の中に積み重なった想いを、自分を世界とつないだつもりにようやくなれるのです。そうしてしあわせになった気になってひとり生きていくのも、そう悪いことではないとも思うのです。

2023.01